“どのように美しくても、経済力のない女は虫のように無価値だ”
医学界の重鎮だった亡父の後を継ぎ病院長となった32歳の戸谷信一は、熱心に患者を診療することもなく、経営に専心するでもない。
病院の経営は苦しく、赤字は増えるばかりだが、彼は苦にしない。穴埋めの金は、女から絞り取ればいい…。
色と欲のため、厚い病院の壁の中で計画される恐るべき完全犯罪。
著者略歴
松本 清張
1909‐1992。小倉市(現・北九州市小倉北区)生れ。
給仕、印刷工など種々の職を経て朝日新聞西部本社に入社。
41歳で懸賞小説に応募、入選した『西郷礼』が直木賞候補となり、1953(昭和28)年、『或る「小倉日記」伝』で芥川賞受賞。
’58年の『点と線』は推理小説界に“社会派”の新風を生む。
生涯を通じて旺盛な創作活動を展開し、その守備範囲は古代から現代まで多岐に亘った。