【発売:1999年3月】
昭和30年代の高度成長期は、また松本清張ミステリーのピークともいえる時期でもあった。『砂の器』や『点と線』など「社会派」の端緒と捉えられることの多い清張作品であるが、実は本格ミステリーとしてのしっかりとした骨格を持ち、風俗描写にも優れている。本書は社会が大きく変容したこの時代と清張作品とを、「映画館の見える風景」、「愛と性の考古学」、「貞操をめぐる物語」といった章立てで社会学、風俗学的見地から考察していく、新しいタイプの清張論である。 圧巻なのは、短編『憎悪の依頼』を、当時の雑誌に掲載された、性や貞操にまつわる実際の相談例を取り上げながら分析していくくだりだ。主人公が交際1年におよぶ女性と性交渉を持つには至らなかった理由が、同時代の文化コードと照合され解き明かされる過程には、知的興奮を覚える。巨匠には違いないものの平成以降は過少評価されがちであった清張作品に、新しい読者を呼びこむに違いない力作である。 日本が大きく変貌した高度成長期と松本清張。この両者の出会いで花開いたのが「社会派」と称される新たなジャンルのミステリーだった |
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